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2009-01-18

加藤栄一『時事ロシア語』

時事ロシア語

時事ロシア語

閑話傍題(アネクドートの小部屋): ロシア語独習者のための質問箱 第2回

「時事ロシア語」についてはいい本だが、単語の和訳で多少疑問のあるものがある。興味のある方は、私のホームページ「ランポポー」の「ロシア語ガイド・通訳・翻訳に役立つ参考書」の最終ページ参照願う。

そろそろこの本に着手しようかと意ってたところだったので、実にいいタイミング。ありがたい。

@nifty:@homepage:エラー

116. *時事ロシア語、加藤栄一東洋書店、2008年

初級者が読解力をつけるために最初に読むものとしては最適である。文学と違い、ロシア的なものがあまりないということと、語彙の内容で分からないことがあってもインターネットや新聞などで調べることが可能であるからだ。初級者向けとあるが、読んだ感じでは初級と中級の中間ぐらいである。初級向けというなら、意訳はできるだけ避け、文章の構成が分かりやすいものにした方がよいと思う。しかし、扱っている分野が非常に広いことなど感心させられる。敢えてコメントするなら、

17ページのубедительная победаを「地滑り的勝利」としているが、「確かな勝利」ではないか?

19ページのпредварительные данныеを「これまでのデータ」としているが、предварительный = неокончательный; предшествующий чему-л. основному, главномуという意味だから、「中間データ」とでも訳すべきではないか。

39ページМною был пописан указ.を「私は大統領令に署名したところであります」と現在完了のように訳し、Я подписал указ.の「権威の受動態」としているが、これはおかしい。Я подписал указ.の受動態で結果の存続という意味ならМною подписан указ.となるべきだ。РозентальはСпоравочник по русскому языку Практическая стилистика, ОНИКС, 2008(ロシア語参考書実用文体論)の中で、Мною дано указание. Я дал указание.「私は指示を与えた」という例を挙げて、Я дал указание.に比べてМною дано указание.は文学や実務的発話で用いられ、断定を避け、より表現を和らげる形であると書いている。Мною был подписан указ.というのは動作が発話以前に終了したことを意味するだけで、たった今〜したという意味はない。たんに「私が政令に署名した」という意味であろう。権威の受動態という用語は聞いたことがないが、革命前なら(つまりツァーリの時代なら)мы = я(日本語なら朕とか余)という人称の転用を使うはずだが、民主主義の世の中なので、мнойの古い用法мноюで格式を示しているのかもしれない。

65ページприверженностьをコミットメント(確約)としているが、コミットメントはзаверения(複数)のはず。приверженностьは賛意や支持という意味ではないか。72ページвыделение кредитовを「融資の実施」としているが、間違いとは言わないまでも、学習者向けの参考書なのだから、より正しいвыделение (= предоставление) кредитов「クレジットの供与」とすべきではないか。

89ページразмещение акцииはразмещение акцийのタイプミス。

93ページпотребительсткий кредитを「消費性ローン」としているが、「消費者ローン」ではないか。имущественное страхованиеを「物保険」としているが、「対物保険」ではないか。

115ページтуриндустрия「旅行産業」とあるが、「観光業」ではないか。

117ぺージменеджерを「経営者」としているが、マネージャー(課長、部長)ではないか。

122ページцеллюлозно-бумажная промыщленностьは「セルロース・紙産業」ではなく、紙パルプ工業であろう。инструментыを「測定機器」としているが、「工具」である。測定機器はизмерительные приборыという。

123ページспиртовая промышленностьは「スピリッツ製造業」ではなくて、「アルコール製造業」であり、ликёроводочная промышленностьは、「リキュール製造業」ではなくて、「リキュール・ウオッカ製造業」である。

131ページмногоцелевойは「多用途」と訳すよりは、「多目的」が普通である。

133ページполётная палуба аианосцаを「空母の甲板」としているが、「空母の飛行甲板」である。同様に、(攻撃原潜)は(攻撃型原潜)である。

149ページ「部隊防空兵」とあるが、「防空部隊」ではないか。同じく「水路学部隊」よりは、「水路確保部隊」の方が原文に忠実だし、「掃海部隊」のことではないか?

150ページбытовое преступлениеを「家庭の犯罪」と訳しているが、「日常的犯罪」ではないか。

159ページхулиганствоを「暴力行為」としているが、нарушение правил общественного порядкаということで、反社会行為(公序良俗違反)ということなので、必ずしも暴力行為だけとは限らないはず。痴漢行為や落書きなどもそうではないか。

161ページ「秩序の番人」は直訳すればそうだが、日本語では「法の番人」のほうがよいではないか。

173ページдрагоценные металлыをレアメタルと訳しているが、「貴金属(金、銀、プラチナなどの」が正しい。希少金属レアメタル)はредкие металлыでクロムなどを指す。

177ページ「シャヒード・ベルト」は「自爆ベルト」が普通ではないか。

185ページの「適応停止中」は「適用中止中」のミスタイプ。186ページの「重大な犯罪」は「重罪」でよいのでは。「行政的違法行為」とあるが、「違法な行政行為」が自然ではないか。

187ページの「個人に対する犯罪」は「個人的法益に対する犯罪」、「社会的安全および社会秩序に対する犯罪」は「社会的法益に対する犯罪」、「国家権力に対する犯罪」は「国家的法益に対する犯罪」の方が自然ではないか。

209ページの「非常口」はзапасной выходが一般的。

212ページのпо состоянию наは熟語なのだから、訳例通り「〜現在」とすべきである。

214ぺージの訳例に「3万人」とあるが、более 30 тысяч человекなのだから、「3万人を超える人」などの正確な訳にすべきだ。

219ページの「暑熱」とあるが、「熱波」のほうがよい。

223ページの「休火山」と「死火山」は専門用語として今や使用されていないはず。

233ページのрождаемостьを出生者数としているが、これはколичество рождений за оперделённый промежуток времениをいい、出生率が正しい。смертностьも同様に、количество случаев смерти за какое-л. период времениであるので、「死亡者数」ではなく、「死亡率」が正しい。

244ページвсея Руси の力点の位置が違う。всея Русиのはず。272ページのには力点が訂正されている。

247ページの力点もпатриархияとなっており、патриархияも可とあるが、Словарь трудностей русского языка (Русский язык, 1981) には、потриархия (не патриархия) となっており、Словарь ударений для работников радир и телевидения (Русский язык, 1984) にもпотриархияしか記載がない。

256ページのракета-носительを「ロケット」としているが、「打ち上げロケット」が正しい。

256ページの「ロケットの弾頭部分」はミサイルではないのだから、「ロケットの頭部」とすべきだ。

@nifty:@homepage:エラー

обозрительобозритель2009/01/24 15:55さとう好明さんの見解も一理ある。
117ぺージменеджерを「経営者」としているが、マネージャー(課長、部長)ではないか。

122ページцеллюлозно-бумажная промыщленностьは「セルロース・紙産業」ではなく、紙パルプ工業であろう。инструментыを「測定機器」としているが、「工具」である。測定機器はизмерительные приборыという。

123ページспиртовая промышленностьは「スピリッツ製造業」ではなくて、「アルコール製造業」であり、ликёроводочная промышленностьは、「リキュール製造業」ではなくて、「リキュール・ウオッカ製造業」である。

このあたりはそのとおり。だが、批判があたらないところも少なくない。
たとえば、потребительсткий кредитを「消費者ローン」とべきというさとう氏の意見は問題。日本語で「消費者ローン」は平たく言えば「サラ金」、つまり銀行以外のところから借りる高金利ローンだが、「消費性ローン」は銀行が提供するから、「消費者ローン」というのは大間違いではないか?
軍事関係でも「149ページ「部隊防空兵」とあるが、「防空部隊」ではないか。同じく「水路学部隊」よりは、「水路確保部隊」の方が原文に忠実だし、「掃海部隊」のことではないか?」とおっしゃっていいるが、わが国の防衛白書そのほかの訳語と、「時事ロシア語」の訳語は一致している。
「209ページの「非常口」はзапасной выходが一般的」というのも?аварийный выход も同程度の頻度じゃないか?
「247ページの力点もпатриархияと...」の記述も、手持ちの サンクトペテルブルグ大学編、Давайте говорить правильно- лексика православной церковной культуры (2006)では「時事ロシア語」どおりに両方のアクセントが可となっている。
「65ページприверженностьをコミットメント(確約)としているが」とありますが、これで間違いありません。サミット報道ほか調べましたが、コミットメントはприверженность.
完全無欠ではないものの、「時事ロシア語」はニュースソースをよく分析し、ロシア語表現だけに引きずられないように英語や日本語のジャーナリズムも調べ上げている。

通りがかり通りがかり2009/01/24 18:07あれ?と思ったのは
「同様に、(攻撃原潜)は(攻撃型原潜)である」のとこですね。
そのスジの人は「攻撃原潜」の表現を取るとおもいますが...

「行政的違法行為」とあるが、「違法な行政行為」が自然ではないか。」も全く間違った指摘です。ロシアの法律でадминистративное правонарушение というのは、簡単に言うと行政側が犯した「違法な行為」ではなくて、過料にあたる軽微な罪のことをいいますよ。東京大学出版会から出ている「現代ロシア法」をよく読んでみてください。

jiangmin-altjiangmin-alt2009/01/24 20:08盛りだくさんの情報ありがとうございます。後で参考にします。

通りすがり通りすがり2009/01/24 21:53お邪魔しております。ご参考までもう一箇所書いておきます。

「39ページМною был пописан указ.を「私は大統領令に署名したところであります」と現在完了のように訳し、Я подписал указ.の「権威の受動態」としているが、これはおかしい。...РозентальはСпоравочник по русскому языку Практическая стилистика, ОНИКС, 2008(ロシア語参考書実用文体論)の中で、Мною дано указание. Я дал указание.「私は指示を与えた」という例を挙げて、Я дал указание.に比べてМною дано указание.は文学や実務的発話で用いられ、断定を避け、より表現を和らげる形であると書いている。」

この部分の問題提起は、このケースではちょっとちがうのではないか?と思います。文体論の別の参考書 Стилистический энциклопедический словарь русского языка (Под редакцией М.Н. Кожиной, Москва, 2003) 273-275ページの公文書の文体特徴の説明に受動構文の多用が挙がっています。政治家の発言や公文書での受動文は、決して表現を和らげているのではなく、高飛車な「お上の物言い」の特色だという事らしいですね。

追記追記2009/01/25 08:36「93ページ имущественное страхованиеを「物保険」としているが、「対物保険」ではないか。」

→日本の保険業界団体のサイトの説明は以下の通り。
「Q2. 損害保険にはどんな種類がありますか?
A2. 大きく分けると、“財物”に対する損害を補償する「物保険」、”人”に対する損害を補償する「人保険」、法律上の賠償責任をカバーする「損害賠償保険」、その他の保険に分類されます。」
http://www.nihondaikyo.or.jp/c_chishiki/07q0102.html

「115ページтуриндустрия「旅行産業」とあるが、「観光業」ではないか」

→ロシア連邦法 Об основах туристской деятельности в Российской Федерации の定義では туристская индустрия (その略がтуриндустрия) を совокупность гостиниц и иных средств размещения, средств транспорта, объектов познавательного, делового, оздоровительного, спортивного и иного назначения, организаций, осуществляющих туроператорскую и турагентскую деятельность, а также организаций, предоставляющих экскурсионные услуги и услуги гидово-переводчиков.
としています。「旅行産業」という表現がまだ一般的ではないのかもしれませんが、ビジネス旅行客と観光客を対象としたサービスも含めた概念です。「観光業」ではレジャー目的のお客だけを対象にしている印象を与えます。

以下、社団法人日本旅行業協会のホームページの説明を示します。

「旅行者と直接的にかかわる産業として「交通関係」「宿泊」「飲食店」「観光レクリエーション施設」「土産品販売」「旅行業」が挙げられます。他にも旅行と密接な関わりをもつ業界は多数あることでしょう。それらの総称が旅行産業です。」
http://www.jata-net.or.jp/tokei/008/3.htm


http://www.jata-net.or.jp/tokei/008/3_5.htm

とおりすがりとおりすがり2009/01/25 14:00「233ページのрождаемостьを出生者数としているが、これはколичество рождений за оперделённый промежуток времениをいい、出生率が正しい。смертностьも同様に、количество случаев смерти за какое-л. период времениであるので、「死亡者数」ではなく、「死亡率」が正しい」

→確かに、「出生率」「死亡率」の方が一義としてはよい。しかし、明らかに「出生数」「死亡者数」の意味で使っている用例もある。http://demography.invur.ru/index.php?id=263

В Тюмени рождаемость превысила смертность более чем на тысячу человек.
「チュメニでは出生率が死亡率を1000人強上回った」とは訳せない。「出生者数が、死亡者数を1000人上回った」なのだ。

また、рождаемость превысила смертность.の文の前後では、パーセンテージではなく、出生者数・死亡者数の話題が続くことが実に多いのもまた事実。

Чувашстат: Рождаемость превысила смертность только в городах. В Чувашии в январе -сентябре 2008 года в республике родилось 11.216 человек и умерло 13.843 человека.
www.regnum.ru/news/1078149.html

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